関数解析復習会のその先「Weyl-von Neumannの定理」

数学カフェAdvent Calender 12/13分です。

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前回の記事に引き続き今回も関数解析関連のトピックです。

lyricalmaestrojp.hatenablog.com

今回はWeyl-von Neumannの定理について紹介します。

Thm (Weyl-von Neumann)

可分な無限次元Hilbert空間\mathscr{H}上の有界自己共役作用素Hと正の数\epsilon \gt 0に対して、 $$ H = D + K , \ \ \ \ \ \Vert K \Vert \lt \epsilon $$ となる有界自己共役対角作用素DとCompact作用素Kが存在する。

関数解析復習会でCompact作用素とFredholm作用素について取り扱っていたので、これらの考えを応用させた定理を紹介してもいいのでは?というのでこの定理の紹介をすることにしました。

前提知識は関数解析復習会でやった内容(黒田の関数解析)と前回の私のブログの記事でしょうか。

参考文献等はこの記事の後半で紹介します。

Weyl-von Neumannの定理は何を意味しているか?

この定理の意味を説明する前にまず定理に出てくる用語の説明をします。

Def

可分な無限次元Hilbert空間\mathscr{H}上の有界線型作用素Dについて、

$$ Dx = \sum_{n=0}^{\infty} \lambda_n \langle x, e_n \rangle e_n \ \ \ \ {}^\forall x \in \mathscr{H}$$ となる完全正規直交基底 \lbrace e_n \rbrace_n有界数列 \lbrace \lambda_n \rbrace_nが存在する場合、D有界対角作用素と呼ぶ。

この定義上で出てくる \lbrace e_n \rbrace_nを使って x \in \mathscr{H}l^{2}の元 \lbrace c_n \rbrace_nを用いて

$$ x = \sum_{n=0}^{\infty} c_n e_n $$

と記述できます。この上で定理の等式を書き直すと、

$$ D(\sum_{n=0}^{\infty} c_n e_n) = \sum_{n=0}^{\infty} \lambda_n c_n e_n \ \ \ \ {}^\forall \lbrace c_n \rbrace_n \in l^{2}$$

と書くことができます。

これは、対角作用素は基底の取り方によって掛け算作用素と同等の振る舞いをする作用素であることを意味します。


さて、全ての線型作用素が対角作用素の条件を満たすとは限りません(たとえ有界という条件があったとしても)。しかし、Weyl-von Neumannの定理は有界自己共役作用素であれば、適切なCompact作用素の差をとると有界自己共役対角作用素になる有界自己共役作用素有界自己共役対角作用素でノルム近似できるということを主張しています。この定理の意味は、一般の線型作用素を対角作用素(掛け算作用素)の問題に帰着させて解くことができる、という論法を保障する、という風にとることもできます。

Weyl-von Neumannの定理の証明のアウトライン

まず、条件の一つである\mathscr{H}は可分というところから\overline{\lbrace x_n \mid n=1,2,… \rbrace} = \mathscr{H}となる点列 \lbrace x_n  \rbrace_n が取得できます。

この点列\displaystyle \lbrace x_n  \rbrace_n についての帰納法を用いて以下の条件を満たす有限次元Hilbert部分空間の列\displaystyle \lbrace \mathscr{H}_n  \rbrace_nと各 \mathscr{H}_n上の自己共役作用素(エルミート行列)D_nを取ってきます。

  •  \mathscr{H}_nたちは互いに直行する。すなわち n \ne mなら \mathscr{H}_n \perp \mathscr{H}_m

  •  x_nについて x_n \in \oplus_{k=0}^N \mathscr{H}_kとなる自然数Nが存在する。

  •  \mathscr{H}_nへの射影作用素 P_nとすると、\displaystyle \Vert T P_n - D_n \Vert \le \frac{\epsilon}{2^n}

これは少しずつTを「行列成分の対角化」しているイメージです。

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このD_nを並べたものをDとすると、各D_nが当然対角化可能だからDは自己共役でかつ有界な対角作用素になります。そして、T-Dの差がCompact作用素であり、かつ \Vert T-D \Vert \le \epsilonであることを示せばOKです。

ここまでアウトラインを述べましたが、きちんと数学的に厳密に示すには以下のことを示さなければいけません。

(1) そもそも要求通りの有限次元Hilbert部分空間の列\displaystyle \lbrace \mathscr{H}_n  \rbrace_nと各 \mathscr{H}_n上の自己共役作用素D_nが取れるのか?

(2) D_nの「貼り合わせ」が存在するか?

(3) T-Dの差がCompact作用素であり、かつ \Vert T-D \Vert \le \epsilonであるか。

(1)について

これを示すために登場するのが有界自己共役作用素のスペクトル分解定理」です。この定理からTに付随するスペクトル族 E_tがとれます。このスペクトル族と幅が\epsilon区間 \triangle_iたち(この「互いに交わらない」区間は有限個)で構成された階段関数 f_i := \sum_i \lambda_i 1_{\triangle_i} \ (\lambda_i \in \triangle_i)であらたな作用素D'_1を構築します。

(厳密には D'_1 = \int f_i(t) E_t 作用素を定義します。)

そして、 x_1にたいして、\displaystyle \mathscr{H}_{1} := \overline{span} \lbrace E(\triangle_i) x_1 \rbrace とするとこれは有限次元Hilbert空間になります。構成法から当然\displaystyle \Vert T P_n - D_n \Vert \le \frac{\epsilon}{2}が成り立ちます。


次に x_2について考えます。生まんま x_2を使わずに y_2 := (I - P_1) x_2を使う。もし、y2 = 0なら次のx_3, x_4, …y2 が非ゼロとなるまでindexを増やし続けます(大元のHilbert空間が無限次元なので、どこかのindexで必ず要件を満たすx_nがとれます!)

y2 が非ゼロとなるx_nについて、先ほどの議論で幅をさらに小さくした区間で構築した階段関数と作用素、Hilbert空間を作っていけばOKです。こういう議論を繰り返して構成していけばOKです。


(2)について

点列 \lbrace x_n  \rbrace_n の作り方と、 \mathscr{H}_nの作り方から  \oplus_{k=0}^{\infty} \mathscr{H}_k = \mathscr{H} を示すことができます。これをベースに D := \sum_{n=1}^{\infty} D_n P_nと定義するとこれは作用素強収束し、これが有界自己共役対角作用素になります。

(3) について

$$ T - D = (T - D )( \sum_{n=0}^{\infty} P_n) = \sum_{n=0}^{\infty}(TP_n - D P_n) = \sum_{n=0}^{\infty}(TP_n - D_n)P_n $$

より、

$$ \Vert T - D \Vert = \sup_{n} \Vert (TP_n - D_n) \Vert \le \epsilon $$

が成り立ちます。さらに、十分大きな m, kについて

$$ \Vert \sum_{n=m}^{k}(TP_n - D_n)P_n \Vert \le \frac{\epsilon}{2^m} $$

が成り立ちます。Rangeが有限次元の作用素作用素ノルムの意味でのCauchy列の極限作用素はCompact作用素なので、 T - DはCompact作用素になります。

Weyl-von Neumannの定理の応用とその証明(のアウトライン)

この定理の応用例として以下の定理を証明していきます。この定理は実はC*環の理論やK理論とかで応用される定理だったりします(具体的な部分については知識不足でそこは紹介できませんが・・・)

Thm 有界自己共役作用素T,S について以下の二つは同値。

(1)   \sigma_{\mathrm{ess}} (T) = \sigma_{\mathrm{ess}} (S)

(2) 等式  T - USU^* = Kを満たすユニタリー作用素UとCompact作用素 Kが存在する。

Step1 (2)から(1)を示す。

Fredholm作用素とCompact作用素の和はFredholm作用素になることから、

 \sigma_{\mathrm{ess}} (T) = \sigma_{\mathrm{ess}} (USU^*)

が言えます。また、Fredholm作用素とユニタリ共役な作用素もまたFredholm作用素になるので(Fredholm作用素であるための必要十分条件の等式の両側からそれぞれU, U^*をかけてあげれば証明できます)、

 \sigma_{\mathrm{ess}} (U) = \sigma_{\mathrm{ess}} (USU^*)

が成り立ります。したがって(1)が証明できたことになります。

Step2 (1)が成り立つと仮定します。Weyl-von Neumannの定理からこの問題は有界自己共役対角作用素の問題に帰着させることができます。

また、

  •  \sigma_{\mathrm{ess}} (T) に属さないスペクトル \lambdaは、孤立点でその固有空間の次元は有限次元。
  • 有界線型作用素のスペクトル集合はcompactだから、孤立点は高々有限個。

という事実から  \sigma_{\mathrm{ess}} (T) に属さないスペクトルの固有空間の和空間は有限次元なので、この上だけで有効なCompact対角作用素分「ずらし」て、  \sigma_{\mathrm{ess}} (T') = \sigma (T')とすることができます。 したがって、  \sigma_{\mathrm{ess}} (T) = \sigma (T)と仮定して証明しても問題ないことがわかります。

Step3 掛け算作用素におけて、 \sigma_{\mathrm{ess}} (T) = \sigma_{\mathrm{ess}} (S)ならばその集合に属するスペクトルに付随する固有空間は0か一律可算無限になります。(固有空間が0の場合は、スペクトルが集積点であることを意味しているので、近傍に無限次元な固有空間を持つスペクトルがいくらでも取れます)

組合せ論のテクニックを使って、 T - USU^*となるユニタリー作用素Uを取ってくればOKです。

Step4

あとは、Compact作用素イデアル性をうまく使って計算すれば証明が完了します。

まとめ

ざっとしたアウトラインベースですが、ごつめな定理の証明を紹介しました。

これで関数解析の先にある理論がこんなもんだー。とか、スペクトル分解定理ってつかえるなーとか思っていただければいいかなと。

参考文献

ヒルベルト空間と線型作用素 https://www.amazon.co.jp/%E3%83%92%E3%83%AB%E3%83%99%E3%83%AB%E3%83%88%E7%A9%BA%E9%96%93%E3%81%A8%E7%B7%9A%E5%9E%8B%E4%BD%9C%E7%94%A8%E7%B4%A0-%E6%95%B0%E7%90%86%E6%83%85%E5%A0%B1%E7%A7%91%E5%AD%A6%E3%82%B7%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%82%BA-%E6%97%A5%E5%90%88-%E6%96%87%E9%9B%84/dp/479520103X


C*-Algebras by Example (Fields Institute Monographs, 6) Kenneth R. Davidson (著) https://www.amazon.co.jp/Algebras-Example-Fields-Institute-Monographs/dp/0821805991


作用素環入門〈2〉C*環とK理論 [単行本] 生西 明夫 (著), 中神 祥臣 (著) https://www.amazon.co.jp/dp/toc/4000054090/ref=dp_toc?_encoding=UTF8&n=465392


A Course in Operator Theory (Graduate Studies in Mathematics) John B. Conway https://www.amazon.co.jp/Course-Operator-Graduate-Studies-Mathematics/dp/0821820656