【第21回 数学カフェ】蔵本モデルと一般化スペクトル理論に参加してきました。

9/23(土)に開催された【第21回 数学カフェ】蔵本モデルと一般化スペクトル理論に参加してきました。

connpass.com

会場はオラクルJapan青山オフィス。前回の超越数論の回でもお世話になった場所です。 今回の発表でもホワイトボードをメインに使った議論をしていたのですが、前回ここで数学カフェやった時と違ったのがスクリーンに写っているスライドが存分に力を発揮していたことでしょうか。

今回の講師は九州大学の千葉先生。 同期現象を起点にいろいろ話を進めていってくれたので最後の章部分以外はなんとか十二分に理解できてたと思います。 参考文献等は上記のconnpassのサイトに書いてありますのでそちらをご参照ください。

1. 蔵本モデルとは?

まず、同期現象とはなにかをホタルの光などをたとえに説明されていました。そこから蔵本モデルを表す式が登場。 力学系で何をやるかというのを説明するため、パラメータをどう設定すれば振る舞いがかわるのか?みたいなものを2次元の蔵本モデル(考える振動子の状態が2つ)を使って説明。 2次元だと式変形で一次元の常微分方程式の問題に帰着できて、、、そこからt->∞とするとどうなるみたいな議論を展開してました。 ここから3次元4次元と次元を増やした場合の解析はものすごく難しくなる、というところで下手に多次元のものを考えないで「Order Parameter」と呼ばれるものを考えて問題をシンプルにしていきました。 このシンプルにした状態で、無限個あったときにどうなるかを次行こう考えて行きました。

2. 連続な蔵本モデル

振動子の数が無限、かつ連続的に存在すると仮定すると密度関数などを使って偏微分方程式の形で蔵本モデルの連続版は記述することができます。

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偏微分方程式の攻略法の一つとして、Fourier変換がありますが、今回もそれを使って「常微分方程式化」をして行きます。 式変形を繰り返していく中で「無限次元版常微分方程式」の形に持って行きました。持っていく途中でnon linearの項を無視していましたが、これはどうも力学系的な安定性を調べる上では無視しても問題ないっぽい。間違っていたらごめんなさい。 結局、この形の蔵本モデルをとくことに帰着します。

 \begin{cases}
\frac{dZ_{1}}{dt} = (i\omega + \frac{K}{2} P) Z_{1} \\
\frac{dZ_{k}}{dt} = iK \omega Z_{k}  \quad \quad\quad (k = 2, 3, …)
\end{cases}

この問題をとくためにスペクトル半群の考え方を用います。

3. 線形作用素のスペクトルと半群[一般論]

ここからは一般論の話。 線形作用素の定義、関数解析の基本的な定理などの紹介はほぼほぼ割愛して、いきなりレゾルベント集合、スペクトルの定義に行きました。この辺りはこの数学カフェよりも前に行われた予習会でやっているだろうということで。。。 半群関連で有名な定理として「Hille-Yoshidaの定理」が紹介されましたがそれの詳細な紹介も予習会でやっただろ、的なノリでこれも割愛。角域作用素については初めて定義を知りました。(一応connpassにのっていた文献にもそれの定義ありましたけどね。。)これは非有界作用素の性質のなかでも美味しい条件の一つで、今回のようなHille-Yoshidaの定理を使う半群にとってはわかりやすいものだったりします(間違っていたらごめんなさい。) あ、ちなみに連続線形作用素は角域作用素です。(この部分を証明したい人向けに角域作用素の定義を以下に記載します。)
定義

Banach空間 X 上で稠密に定義された閉作用素Aとする。

A : 角域作用素である <=>   \exists a ∈ R, 0  \lt  \exists \phi \lt   \pi / 2   \quad s.t. \quad   \sigma (A) \subset S_{\phi, a}

ここで、 S_{\phi, a} \equiv  \{ \lambda ∈ C \mid \pi - \phi \lt \arg |\lambda - a|  \lt \pi + \phi \} とする。

個人的な所感ですが、この辺りで半群の生成作用素のスペクトルが全て負だとわかりやすい式でかけて振る舞いが調べやすいんだなと悟りました。

4. スペクトルと半群の理論を連続な蔵本モデルに適用

ここでは、作用素 T = i \omega + \frac{k}{2} P」のスペクトルを調べることで蔵本モデルの安定性を議論しよう、というトピック。この作用素に対する固有方程式を考えていくと、この作用素固有値複素平面の正の実軸上にしか所属しない、ということがわかります。 また、連続スペクトルは \frac{k}{2} Pがコンパクト作用素であることから \sigma _{c} (T) = iR (複素平面でいう虚軸)に属することがわかります。(*) 固有方程式を発展させて計算していけばわかることみたいなのですが、 K_{c}  \lt Kのときは自明解は不安定で有ることがわかる。これは同期現象的には「時間が経てば同期する」ということを意味している。 しかし、 0 \lt  K  \lt K_{c} のときは普通の理論ではわからないのでどうしよう?というので登場するのが一般化スペクトル理論。(なぜならKがこの値の範囲に入る時固有値は負の実軸の中に潜んでしまい、虚軸上にある連続スペクトルのせいでその固有値をとらえた議論ができなくなる(ラプラス変換の知恵が使えなくなる)からである。)

ここまで話を聞く限り、スペクトル理論が力学系の解の安定性を議論するのにものすごく使えるなーというのがわかりました。個人的には最初の(*)の部分の命題が非自明だったのでちょっと証明を考えてみようかと思っています。。。。しかし、数日考えたが証明が思い浮かばず。。

http://www.ne.jp/asahi/music/marinkyo/matematiko/kato.html.ja

のテキストに頼るしかないのか。。。

5. 一般化スペクトル理論[一般論]

一般化スペクトル理論の発想は、レゾルベントを有る意味でSchwarz超関数的な発想で「ある特殊なクラスの線形汎関数へ作用するもの」というふうに取り扱うということ。印象的だったのは扱う関数のクラスをL2から連続関数、さらに正則関数にまで落とし込んで考えていたのが印象的。正則関数まで落とし込んであげると解析接続を使って右半分から左半分(の一部)を使ってスペクトル理論を展開できるので先ほどの議論でとらえることのできなかった固有値を使った安定性理論を議論することができる、ということ。

あとで見つけたのですが、このテキストに一般化スペクトル理論について載っていますね。。。 http://www.ne.jp/asahi/music/marinkyo/matematiko/kato.html.ja

Gelfandの三つ組、一般化スペクトル、一般化レゾルベント、一般化固有値と定義とそのアイデアをバシバシ紹介していっていました。定義の仕方がかなり違うが結果がHilbert空間上のスペクトル理論と同じような結果が出ているのに面白みを感じます。 ちなみに余談として「Barreled sp」という用語が出てきましたが、定義はこの中に貼っておきます。

樽型空間 - Wikipedia

6. 一般化スペクトル理論の蔵本モデルへの応用

一般化スペクトル理論を使って 0 \lt  K  \lt K_{c} のときの解析をしていきます。結果としては自明解は安定。つまり、Kがこの範囲にいるときは、同期することはない、ということです。 さらっと紹介しちゃいましたが、実際の証明は計算のオンパレードみたいです。。。

7. 分岐

力学系には分岐理論というものもありまして、それの中心となる概念が「中心多様体・中心部分空間」と呼ばれるものです。ここの部分は私もしっかり理解はできていないのですが、蔵本モデルの場合だと  K_{c} 近傍で解の振る舞いがどう変わるかを調べていく、ということをやっていました。

8. 最近の研究紹介

この蔵本モデル、お互いに干渉し合う度合いは一様という条件がつきますが、現実はそういうケースはまれ。繋がりはグラフのエッジの重みで決まることがままある、ということでグラフと蔵本モデルをドッキングさせた理論について紹介。そして、この理論における最近の研究結果を紹介していただきました。 ということでここまででおしまい。

一緒に出席していた友人曰く「なんで数学者はすぐに無限次元に拡張したがるんだろう?コンピュータではもう有限しか扱えないのに」とのことでした。これに関しては僕はフォローしようとしましたが、完全にしっくり来ていただいたかは謎。確かにコンピュータを使ってシミュレーションする場合とか実際問題は馬鹿でかい次元の有限次元なので。。。。無限の美味しい性質がまんまつかえるかはちょっと謎ですね。。 でも、こういう無限次元について考えることは有限次元に近似していく上でもものすごく大事なことなので無限次元について考えるのは意味があることなのでは!と僕は信じています(だって微分ですら実際は離散化してコンピュータに計算させていますよね?現在こういうコンピュータ技術が発展していてもやはり微分について学ばなくていいということはないですよね。むしろ学んだ方がいい結果出るのはもう経験則でわかるのではと思います。)

まとめと感想

予習会に2度ほどお世話になったのと千葉先生の話し方がものすごくうまかったので大枠は理解した気になれました! そもそも作用素論を微分方程式の解析にどのように役立てているかの一旦が垣間みえて大変勉強になりました。あと、一般化スペクトル理論というものも知ることができたのはでかいです。これは自分が学生時代(作用素環論やってたんですが、この理論知らなかった…)では知らなかったのでね。 これ自分である程度数学的に理解できるぐらい穴埋めやってみたら力尽きそうだなー。というか蔵本モデルを応用したプログラミングとかやったらどうなるんだろうなー。とか思ったり。今度作ってみようかなぁ。Androidアプリとか。